文鮮明師(統一教会創始者)の脱税収監問題を検証
INQUISITION 
インクィジション(審問)

Carlton Sherwood 著
(以下の文は日刊紙「世界日報」1991.7.7より引用)
 専門家の調査無視し起訴
 
宗教の自由への重大な侵犯
 
米国司法制度の歪んだ実態描く

 第三者の目で追う


 世界基督教統一神霊協会(統一教会)の創始者、文鮮明師は1981年10月、脱税容疑で起訴され、84年7月20日から85年8月20日までの1年1か月、米コネティカット州ダンベリー刑務所に収監された。
 米国では脱税の罪は重い。それは市民の間に納税意識が高いことを反映している。したがって、宗教迫害の結果としても、「脱税」のために投獄されたという事実は今も多くの人の間に文師への偏見を生んでいる。

 こうした中で、第三者の立場で文師の投獄事件を検証し、米国政府の宗教迫害を告発した書物「インクィジション(審問)」が最近、米国で発刊され、話題を呼んでいる。著者、カールトン・シャーウッド氏は文師が創刊した「ワシントン・タイムズ」紙の記者。同氏は米国新聞記者の最高の栄誉であるピューリッツァ賞、米国放送記者の最高の栄誉であるピーボディ賞の両者を受賞した米国唯一のジャーナリストである。
 
同氏自身、同書の中で告白しているが、ワシントン・タイムズ入社時(84年)には文師が脱税したと考えていた。また、洗脳、誘拐などを統一教会が行っているとの一連のマスコミ報道の大半を信じていた。同紙入社も統一教会の悪事を暴くことが目的だった。
 もともと宗教問題は同氏の得意なテーマだった。ピューリッツァ賞をはじめ、さまざまなジャーナリストとしての賞をとった記事のテーマの多くは教会が関係したスキャンダルを告発する記事である。

 米国では70年代から80年代にかけて宗教が絡んだスキャンダル事件が相次いだ。信徒をだましたり、公金を横領した宗教指導者が出ているのに、服役した宗教指導者は一人もいない。文師が納税すべきだとされた金額はわずか、8千ドルだった。
 ところが、同氏が扱った宗教指導者のスキャンダルの金額のケタはまるで違っていた。ポロティンというカトリック神父は海外の飢えた子供への支援という名目で集めた何億ドルの寄付の大半を自身の蓄財、投資に使った。政治資金にも使った。
 また、5万4千ドル分を自身の支持するメリーランド州知事の離婚訴訟費用に振り向けた。それだけのことをしても、ポロティン神父は服役していない。

 「それなのになぜ、文師だけが服役したのか」。宗教担当記者として、当時の疑問だった。同氏はワシントン・タイムズ入社後、統一教会幹部と知り合いになり、食事をともにするにとどまらず、一緒に釣りまでするようになった。ところが、しばらくは「統一教会の悪事を暴くこと」という同氏の目的は変わらなかった。しかし、調べるにつれて同氏の教会への認識が変わっていく。

文師の起訴に疑問

 「統一教会はニューヨーク、ワシントンをはじめ数都市に大きな不動産を所有している。しかしローマ・カトリックやほかの小さな宗派の持つ不動産と比べたら、とるに足らない。そのうえ、
統一教会はほかの宗派と異なり、所有する土地、建物に税金を払っている」(「審問」)

 「
統一教会が都市部の貧民区にある黒人教会に何百万ドルも寄付しているのには驚いた。寄付には何の条件もつけられていない。寄付したからといって統一教会に入会することを勧めることをしないし、その寄付金が文師から来たことすら知らせていない」(同)

 
米司法省犯罪課は文師起訴の前、3人の脱税の専門家に文師および統一教会の帳簿を調べさせた。ところが、いずれの専門家も起訴する事由がないとの結論に達した。この結論はギルバート・アンドルーズ司法副次官補(当時)に回された。ところがアンドルー氏はこの書類を犯罪課につき返し、再調査を命じる。3人の専門家は検討し直したものの、起訴の事由なしとの結論に再び到達した。ところがアンドルーズ氏は起訴すべきだとの結論に達する。

 シャーウッド氏は起訴する事由がないとした司法省専門家の書類は持っているものの、アンドルーズ氏が自身脱税の専門家でもないのにかかわらず、起訴すべきだとしたいきさつに関する書類は入手できずに終わっている。こうした点からもシャーウッド氏は、文師起訴に関して疑問を抱いていく。

正義感が発行促す

 「審問」を発行した出版社のアルフレッド・レグネリー社主自身、「審問」の序文で「統一教会についてよく知らない」と断っている。だが、社主の正義感が発行を促したようだ。
 「
政府はあなたの宗教や信条が嫌いとなれば、あなたをやっつけにかかる。大半の人々はこのことを知らないし、また少なくともこのことを認めたくない。だが、遺憾ながら、政府はそうできるし、実際そうすることを『審問』は示している」(「審問」序文=レグネリー社主)

 米国市民自由連合(進歩派人権擁護組織)、ジェリー・フォルウェル(当時米国唯一の宗教右派指導者)、南部キリスト教徒指導者会議(米国最大のプロテスタント組織)、カトリックなどさまざまな団体が文師のために政府に嘆願書を寄せた。ところが、これらも政府の前には文師の濡衣を晴らすのに不十分だった(同)
 「審問」は文師収監問題を検証しつつ、米国の司法制度のゆがんだ実態をえぐっている。

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