1920年当時の「鄭鑑録」に対する民族意識について
元神奈川大教授・宮田登著『新しい世界への祈り・弥勒』(佼成出版社、1980)
「『鄭鑑録』は、民間に伝承されているもっともポピュラーな預言書といわれている。李朝の滅亡をより強く訴えるものであったために国禁となり、民衆の間にひそかに伝えられてきた。この中で、一般に『鄭鑑録』というのは、「鑑訣」という部分に記されたもので、これは李氏が滅亡したのち、鄭氏が鶏龍に起こると予言している。
一九一九年(大正八)、太平洋会議において、アメリカ大統領ウィルソンは、民族自決主義を唱えた。そして朝鮮に三一運動が起こり、ここに『鄭鑑録』の変革意識がよみがえってきたのである。仮の政治が三年、そして仮の鄭氏が治めるというその三年は、ちょうど朝鮮総督府が三代終わったあとの一九一九年にはじまるのである。そういうことで、鶏龍山を中心にして朝鮮独立運動と呼応する宗教運動が、明らかな形態をとって現われてきた。これが一九一九年から三年後、つまり大正十年をキイポイントにしていることが注目される。この大正十年は、いわゆる辛酉の年であり、この年は革命の年にあたる。すなわち、辛酉革命の都市と一致してくるということで、朝鮮の伝統的な予言信仰である『鄭鑑録』と外的な条件とが重なり合って、新たに鄭氏朝鮮が構想され、それが出現するであろうというように朝鮮民族は考えた。
たとえば、
一九二〇年の十月二十九日、朝鮮では月蝕が見られた。それは暗黒の闇夜であるが、午前零時ごろから暗黒の月の片面が明るくなってきた。これはまさに朝鮮独立の前兆だと人々はみた。また、一九二〇年十二月以来、白昼に月星が出現した。これは太陽と光を争うということであり、月星はアメリカである。つまりアメリカと日本が戦争をする、アメリカは朝鮮に入り、日本を駆逐するであろう。それによって朝鮮は独立するという説が流布していた。(中略)
つまり、『鄭鑑録』の予言がかなり強固に、朝鮮民族の中には位置づけられているということであって、新都ができあがってきて鄭氏が現われてくれば、朝鮮は独立するという考えであった」
(同書P.158〜159)