加瀬俊一・初代国連大使と久保木修己・統一教会名誉会長の対談
統一教会発行「新天地」1991年1月号、新春対談「歴史から見た青年の志」(6〜19頁)より
加瀬俊一(かせ・としかず)
1904年、東京生まれ。東京商大(現・一橋大)2年で外交官試験合格、外務省入省。米アマースト大卒。ハーバード大学大学院修了。名誉国際政治学博士(アマースト大、クラーク大)。外務省情報課長を経て、松岡洋右外相秘書官等を務め、ロンドン軍縮会議、国際連盟脱退などに随行。日米開戦時は北米課長、戦後はミズリー艦上の降伏文書調印式で重光葵外相に同行出席。1955年、初代国連大使。1960年、外務省顧問。吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘等歴代首相の顧問を務めた。1967年10月に吉田元首相が逝去した直後の12月には、元首相から依頼されていた著述の内容を「吉田茂の遺言」(読売新聞社)として著した。1996年には終戦50周年国民委員会会長として「世界がさばく東京裁判」(ジュピター出版)を編集。他に「加瀬俊一回想録」(山手書房)、「日米戦争は回避できた」(善本社)、長男英明氏との対談「昭和が燃えた日〜私の昭和史〜」(光言社)、「明治から平成まで生きた外交官」(光文社)、「あの時『昭和』が変わった─101歳、最後の証言」(光文社)等の著書がある。鹿島出版会会長。外交評論家。世界日報では「ビューポイント」の論説者として健筆をふるった。2004年逝去。101歳。

 加瀬俊一・加瀬英明共著「昭和が燃えた日」
  (光言社 1990) 157頁より

加瀬俊一
 晩年に大変親しくしていた小泉信三さんが、国際人の第一条件は愛国者だと言っておられますが、これはいい言葉ですね。狭い意味じゃなくて広い意味で。

久保木修己 その通りだと思います。日本は先進工業国家群の中で、3つの特異な体質を持っています。第一は、キリスト教文化圏でない。第二に、黄色人種である。第三に、日本語という独特の言語を使う民族である。この3つは日本の特徴であると同時に、国際的になろうとするときに、最大の障害になりかねません。(中略)
それで国際人になるためには、日本人の源流、つまりモンゴルあたりまでさかのぼる試みが必要ではないか、そう考えると、広い意味での愛国心は、日本人というよりアジア人という意識のほうが、国際的な問題を見据えていくことができる。

加瀬 根本的にはご指摘のとおりで、そこまでいかないとこの問題は解明できない。しかし、日本民族の素質は優秀ですね。そうでないと戦後、あれだけ灰燼になった祖国をこんな短い期間でここまで再建できるはずがない。(中略)
明治維新の先覚者であった吉田松陰は29歳で処刑されましたが、アメリカに密航しようとして捕らえられますね。彼が山口を出るときに門下生を集めて「諸君は立身出世してくれ。私はそれを望まない。志を遂ぐるのみ」と言っているんですよ。こういう人がいたから日本は近代化に成功し、明治維新以来、今日までこれたと思うのです。(中略)
ここに先覚者の志があるでしょ。志を遂げるには何がいるか。勇気ですよ。官僚はもちろん、財界人でも、言論人でも勇気がなくてはいけない。勇気がなければ志は遂げられない。勇気が必要なときには、敵は百万人なりとも我行かんという心意気がなければならない。現代人にはそれがちょっと欠けている。

久保木 勇気、志といえば、クラーク博士の有名な言葉がありますね。

加瀬 ボイズ・ビー・アンビシャス(Boys, be ambitious!)。

久保木 日本は、その部分だけ強調されて「イン・クライスト」(in Christ)が抜けている。本当は、キリストにあって大志を抱け。

加瀬 誤って伝えられているところがありますね。クラークさんはアマースト大学出身。私の母校の先輩です。「青年よ野望を持て」と訳されているから、みんな立身出世と解している。前提はキリスト教です。彼はミッショナリーですから。(中略)
日本が国際的に通用するためには、日本だけしか持っていない価値観を外国が理解しなければならないと思う。言葉をかえると、日本の存在理由は何か、文化ですよ。精神文化ね。(中略)日本人はすべてが受け身。明治の文明開化の時から一生懸命になって欧米文化を輸入して見事に吸収しましたね。そういう受容能力は、私は風土からきていると思う。自然の恩恵を受けてきた農耕民族ですから、状勢を受け入れる性格が非常に強い。(中略)
とにかく外国からの受信能力は優れているんですが、発信能力はみすぼらしいですね。日本の主張がない。それはつきつめていうと、日本に思想がないからですね。何といってもヨーロッパやアメリカには信仰があります。いろいろな教派があって一言ではいえませんけど。

久保木 おっしゃるとおり欧米には大原則があります。大という字をあえてつける意味は、究極の実在といいますか、宇宙の大生命といいましょうか、そういう原点が厳然としてある。日本が漠然としているのは、八百万の神というように、神々の雑居という形がとられていることに一つの原因があると思います。
さきほど話に出た明治維新。われわれも注目せざるをえないんです。というのは、明治維新こそ日本が本当の統一国家、近代国家になった出発点だった。日本が初めて生まれたといっていいくらいの重みがある。

加瀬 そうですね。

久保木 さきほど先生がおっしゃったように、日本民族は良きものがあれば遣唐使や遣隋使のように命懸けでも、世界中に学びにいこうとする精神がありますよね。この民族の資質というのは、天が一番ご存じなんです。(中略)いまこそアジアの人々のために、それらの文物を役立てる、分かち合う時にきている。そうしてこそ日本はさらなる発展が約束されているのであって、大半が自分たちのことや日本のことだけしか考えていない現状においては、このままでは日本は天運から見放されると、私どもは危機感を抱いているわけでs。だから国民よ、アジアに目を向け、世界に目を向けよと。

加瀬 いいお話ですね。(中略)人物がいなくなりましたね。小粒になった。民主主義というのは、そんなものかもしれないけどね。

久保木 少なくとも、それぞれの国にそれなりの主人公が欲しいですよね。主人公らしい人がいなくなった。それで世界各国がのたうちまわっている。

加瀬 そうね。指導者よ勇気を持て、そして特に若い人たちには、青年よ志を持てと言いたいですね。

(参考)
久保木修己・統一教会初代会長夫妻
日本の真の独立は「東京裁判史観」の是正から