「ゼンボウ」1997年5月号所収(42〜46頁)
 統一教会信者を拉致する改宗請負人グループ
 ひと頃、マスコミに溢れた統一教会批判報道。しかし、その裏で統一教会信者が強引に拉致・監禁されて脱会を強要される事件が続発してきたことは本誌でも何回か取りあげてきた。最近ではこうした拉致・監禁による脱会強要は、ますます陰湿になり、結婚した夫婦まで引き裂こうとする事件が続発している。統一教会に対する見解は別にして、こうした統一教会の信者に対する拉致・監禁という“犯罪”が許されるのか。

夫の目の前で妻を連れ去る

「キャー!助けてー!」。まだ正月気分もさめやらぬ今年一月十日午後十時半過ぎ、神奈川県川崎市内のファミリーレストランの駐車場に、女性が助けを求め絶叫する声が響き渡った。
四、五人の男が闇に紛れて、食事を終えて出てきた今利理絵さん(26)を羽交い絞めにして、ワゴン車に押し込もうとしたのである。
 この叫び声を聞きつけ、夫の智也さん(27)は、妻を助けようと駆け寄ったが、後ろから二、三人の男にタックルされ、地面に押し倒されてしまった。それでも男たちを振りほどいて、妻のセーターを何とかつかんだ。しかし、男たちにアスファルトの地面に完全に組み伏せられてしまい、多勢に無勢、理絵さんは車の中に無理矢理引きずり込まれ、夫の目の前から連れ去られてしまったのである。智也さんはこの時、全治一週間の傷を負っている。
 智也さん、理絵さんは共に統一教会の信者である。二人は平成七年八月に行なわれた三十六万組の国際合同結婚式に参加し結婚、同年十一月に入籍している。
 理絵さんが連れ去られて以来、夫の智也さんに何の連絡もなく、実家の両親も家に姿は見えない。

妊娠中の妻もあわや拉致

 やはり統一教会の信者である松田利広さんは、昨年十一月十七日、実家に帰った際、車で拉致され、窓やドアが鍵や角材で補強された監獄のようなアパートの一室に監禁された。平成三年八月、韓国で行なわれた三万組の合同結婚式に参加した利広さんは、既に入籍しており、妻の貴和子さんは妊娠七カ月だった。
 利広さんが実家に帰ったまま連絡が途絶えたため、心配した妻の貴和子さんは、実家と連絡を取ろうとしたが、何の反応もなかった。やっと連絡が取れて、十二月五日に実家で
利広さんと会った。しかしこの時、今度は貴和子さんまで利広さんの両親や親族、そして牧師らに拉致されそうになったのである。
 貴和子さんは四時間近くも取り囲まれ逃げ出すことも出来ず、必死で助けを求めた。しかし通報で駆けつけてきた警察官も何ら手を打たず見ているだけ。やっとの事でトイレに入った際、悪から飛び降り脱出した。
 拉致・監禁を逃れるため、妊娠七カ月の貴和子さんは、自分ばかりかお腹の子供の生命まで危険にさらさざるをえなかったのである。
 既婚の統一教会信者に対する拉致・監禁は、ここ一、二年急増し、年間三百件近く起こる拉致事件の、かなりの部分を占めるという。この中には、幸せな生活を送っている妻と子供まで一緒に拉致・監禁される事件まで起きている。

弁護士までが監禁現場に

 
一見、統一教会信者に対する拉致・監禁問題は親子問題に見える。しかしこの背後には、親や親族を教育し、拉致・監禁に導く改宗請負人や牧師が存在する。
 小出浩久さん(35)は都内の総合病院に勤める内科医だった。何人もの患者の命に責任を持つ医者が、平成四年六月から実に二年間にわたって監禁、拘束されている。常識では
考えられないことである。
 小出さんは埼玉県蕨市の実家に帰った際、拉致され、東京の荻窪駅近くのメゾン西荻九〇九号室に監禁された。この監禁場所に連れ込まれて真っ先に現われたのが、統一教会信者に対する拉致・監禁による強制改宗の“首謀者”と言われる宮村峻氏である。
 宮村氏は、統一教会信者の親などを集めては、拉致・監禁をそそのかし、指導していると言われる。小出さんの両親も拉致・監禁を実行する直前まで、宮村氏の勉強会に参加、監禁後は宮村氏の指示に逐一従っていたという。
 宮村氏は監禁後一週間ほどは連日来て、小出さんを説得しょうとした。ある時は、監禁現場に弁護士まで連れてきている。
 小出さんは当時の様子をこう語る。「この弁護士は名刺を見せて、平田広志と名乗りました。私の監禁されている部屋がドアの取っ手はチェーンで縛り付けられ、窓は目張りされ固定、さらに見張りまで付けられているというのに、平田弁護士は『こういう状況が違法であるとは認められていない」などと言っていました。これが違法ではない? 弁護士までグルか・・・。体から力が抜けました」
 これが事実とすれば、人権を守るべき弁護士が、犯罪ともいうべき人権侵害に荷担したことになる。弁護士法にも触れる由々しき問題ではないか。
 この平田広志弁護士は福岡県弁護士会に所属し、全国霊感商法対策弁護士連絡会でも活発に活動する、パリバリの共産党系の弁護士だと言われている。

監禁を容認する有田氏の人権感覚

 拉致・監禁を容認しているのは、弁護士ばかりではない。
 監禁されて一年以上も経った平成四年七月初め、有田芳生氏と『週刊文春』の記者が監禁先の新潟の山荘に小出さんを取材に来た。宮村氏が手配したのである。小出さんは監禁後1カ月ほどして、人身保護請求から逃れるため東京から新潟県に移され、五カ所の監禁場所を転々としていた。この山荘もその一つだった。
 有田氏と宮村氏の関係は極めて深い。宮村氏が信者を脱会させ、有田氏がその脱会信者を取材して統一教会批判の記事を書く。彼の統一教会に関する情報源のはとんどは、宮村氏から提供されているという。
 有田氏はこの時、統一教会系といわれる病院について取材をしていた プライバシーに関わることも含めて取材は四時間ほどに及んだ。取材後、有田氏と文春記者は小出さんに「一年間も閉じこめられていて、よく耐えていられましたね」と話しかけている。この言葉から、有田氏は小出さんが監禁状態にあったことをはっきり知っていたことが分かる。しかし、『週刊文春』のその時の取材記事には、監禁の事実は一行も触れられていない。
 新体操の元五輪選手の山崎浩子さんの監禁・脱会事件の時も、有田氏は山崎きんの話し合いが拘束状態で行なわれていることを最初から知っていたという。しかしこの時も、山崎さんに対する脱会説得を支援するため、敢えて「拉致・監禁はない」とのキャンペーンを張っている。
 
たとえ家族の間であろうと、成人した大人を監禁状態で無理矢理説得することは著しい人権侵害である。しかし、有田氏の一連の報道姿勢を見る限り、統一教会信者に対しては人権侵害を当然と考えているようである。

勉強会で拉致の模擬訓練

 ところで、一連の拉致・監禁は勉強会を通じて行なわれる。小出さんは新潟では、松永堡智牧師(新津福音キリスト教会)の説得を受けるようになった。松永牧師は、統一教会の信者の拉致・監禁、強制改宗に極めて熱心で、毎週土曜白の夕方六時から勉強会を主宰している。小出さんも何回か参加したという。
 
勉強会ではまず、父兄にビデオで改宗への“心得”を学ぶ。統一教会の実態、拉致から監禁、監禁後の手ほどきまでを学ばせるのである。そして牧師の話と元信者の信仰を持っていたときの体験を繰り返し繰り返し聞かせて、父兄の不安を煽り立て、拉致・監禁を決意させるという。
 この勉強会の後には「2daysセミナー」が待っている。これは、勉強会で拉致・監禁を決意した父兄に、その具体的方法を指導するためのものだ。
 ここでは
@監禁場所の選定、A監禁部屋の補強の仕方、B拉致に要する人数に至るまで、松永牧師が直々に説明する。その後、信者のおぴき出し方から、監禁場所までの連れて行き方など、事細かに指導する。
 そして、このセミナーの最後は、マンツーマンによる拉致・監禁の模擬訓練である。参加している父兄が親となり元信者が子供となって、拉致現場を想定してやり取りをするのだ。それを牧師や元信者が細かくチェックをする。全く至れり尽くせりの、監禁指南である。

 本誌はこの取材の過程で監禁マニュアルが掲載された一冊の本を入手した。キリスト教系の出版社「いのちのことば社」が出した「統一教会・救出とリハビリテーション」(田口民也著)と題する本である。著者は統一教会の元信者で強制改宗に積極的に関与している人物である。
 平成六年九月二十日の発行だが、その二カ月後の十一月未には、絶版となり、全国の書店から回収されたという、いわく付きの本である。
 この本の第四章「統一協会からの救出・具体的方法」を見ると、
例えば契約後の段取りの項では「逃亡されそうな場所は全て内側から完全に施錠し、また遮蔽する」とし、@玄関は内側から南京錠をかける、Aベランダ側、または廊下倒も全てアルミサッシ戸、窓はその上から透明または半透明の塩化ビニール波板を打ち付ける、Bアクリル板の上を、レースまたは白いカーテンで覆っておくと、急に部外者(集金人、管理者など)が来た時隠すことが出来る、C室内よりサッシ窓の遮蔽方法等々を挙げ、Cでは用意する大工道具や材料、波板の打ち付け万まで事細かに指導している。

 この本が出版されると、元信者の代理人となっていた全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士が「これでは統一教会の主張する拉致・監禁を裏付けることになる。裁判にも不利だ」と慌てて牧師らに忠告、著者に強く回収を迫ったという。内輪の人間が監禁の手の内を外に漏らしたのだから、相当慌てたに違いない。

 前述の松田利広さんや小出さんも、松永牧師が指導し、この本に掲載されているごとく改造された部屋に監禁されている。
 図らずもこの本の出版は、統一教会信者に対する拉致・監禁、強制改宗の非人道性、人権侵害の実態を当事者自らが明らかにしたのである。

婚姻無効・青春を返せ裁判の現実

 右であれ左であれ、いかなる団体であっても、そこに所属する人たちの人権は守られなければならない。当然のことである。
 ところが、マスコミが騒ぎ、イメージ付けが行なわれた団体とその構成員に対しては、「人権は無視されても当然」であるかのごとき風潮が蔓延している。そして、マスコミだけでなく、本来、人権を率先して守るべき弁護士までが、一部ではあるがその人権侵害の現状を容認するばかりか、積極的に荷担しているのは、大きな問題ではないか。
 現在、統一教会の元信者が、婚姻の無効を訴えている裁判は全国で二〇件余り、青春を返せ裁判は二二件余りある。これらの原告のほぼ全員が、このような違法な拉致・監禁によって強制改宗を受けた結果、一八〇度心変わりをして、訴訟を起こしているのである。そして、こうした訴訟が脱会の“踏み絵”として使われている現実もある。
 憲法は信教の自由、基本的人権を保障している。
 しかし、成人した大人を拉致・監禁し、信仰を無理矢理捨てさせる強制改宗が、統一教会信者に対してはまかり通っているのである。
 そればかりではない。夫婦の仲が引き裂かれる事件まで頻発しているのである。
 
統一教会に対しては様々な批判もあろう。しかし、統一教会信者に対していま行なわれている非人道的な拉致・監禁を、マスコミや弁護士、そして社会が容認するならば、憲法は形骸化し、民主主義は根底から揺らぐのではないだろうか。