2.「ミロク」(弥勒)とは何か?

●釈迦が予言した「弥勒」とはイエスのことである

 釈迦が生存した年代は明確にはわかっていないが、おそらく預言者マラキと同世代であろうと思われる(紀元前400年前後)。釈迦は個人的には宇宙の真理である「法」(ダルマ)を説いたが、子孫に遺伝する血統問題(原罪)まで仏教によって解決しうるわけではない。そのことを十分自覚していたからこそ、釈迦は悟りを開いたのち、自ら再婚したり子孫を残そうとはされなかったとも考えうるのである。では、釈迦はその悟りの段階で満足されたのであろうか。私は釈迦という人物は個人の悟りの次元にとどまらず、人類歴史の大きな中心軸のようなものを自覚しておられたのではないかと思うのだ。

 すなわち、釈迦は人々に悟りを説かれたが、それだけでなく御自身の入滅後(死後)に「弥勒」なる者が現れて我々を救済すると予言されたのである。もしも釈迦の説いた仏法だけで十分なのであれば、「この悟りの教えを広めなさい」と言うだけでよいはずではないか。彼が偉大な悟りを開きながらも再婚を避けたという事実と関連して、「弥勒」の出現を予言したということを考えれば、釈迦の自覚が個人次元にとどまらず人類史的なスケールを持つものであるという事実を知ることができるのである。

 弥勒はマイトレーヤーという未来仏の名前の漢訳である。渡辺照宏博士によると、この名前は「愛」「平和」「約束」「盟約」を意味する(『愛と平和の象徴・弥勒経』P.2 )。この語意は、真の愛で平和をもたらし預言の約束を成就して世界を一つにするという、メシヤが持っている使命内容にあまりにもよく相当すると思われる。
 したがって釈迦の予言した弥勒の到来(下生という)は、仏教という枠を超えて人類史的レベルの救済を意味していたのである。そして端的に言ってしまえば、それは「第2アダム」(イエス)の事を指していると考えられるのだ。

●弥勒が出現する時期の問題

 もちろん、このような極端に思える見解に対しては当然反論もあるだろう。例えば、仏教経典では弥勒は釈迦入滅後、56億7000万年後という気の遠くなるほどの将来に出現するとされているからである。しかし、このとてつもない年数の解釈については諸説あるが、この数字が到底実際の年数とは思えないということもまた事実である。
 この年数に対する一つの注目すべき解釈として、上記の渡辺照宏博士の説がある。博士によると弥勒の住んでいる世界であるトゥシタ天(兜率天)での一昼夜が、地上の単位の400年に相当するところから、トゥシタ天での一年は360×400=144000年(一年を360日とする)。そして天上での寿命が4000年といわれているので、それに4000を掛けて5億7600年となるが、「これを五七億六千万と読み、のちに口調のよいところから五六億七千万と読みならわしたように思われる」と解釈しておられる(『愛と平和の弥勒経』P.263 〜264 )。
 渡辺博士の説は、この数字が民間伝承的な性質をもつという事を前提にされているようであるが、私はむしろこの数字の根本となる単位が「400年」であるという事実にこそ関心をもつのである。つまり弥勒の出現を意味する年数の基本的単位が、預言者マラキからの400年と一致する事に驚嘆させられるのである。

 しかしそれにしても、この56億7000万年という不思議な数字は他に解釈方法はないのだろうか。そこで、試みに私がこの数字のパズルを解いてみよう。
 まず、釈迦の入滅年代は明らかではないが、南方アジア(インド、タイ、ミャンマー等)の諸国では、南方仏教の伝統説に従い、釈迦の入滅を紀元前544年であるとされており、実際この年代に基づいて仏教に関する世界的な記念式典などが行なわれる。中村元博士は「世界中の仏教徒が一つの約束として、この年代を採用することは一向に差支えないが、学問的には大いに疑問の余地がある」とされ、博士自身は紀元前383年入滅説をとっておられる(『原始仏教』P.35)。

 私は弥勒に関する56億7000万年という数字自体が民間伝承的な性質をもつとすれば、それにあわせて釈迦入滅年代も民間伝承的な紀元前544年という年代を当てて解釈するのが弥勒の解明に関する限り妥当なのではないかと考える。
 そのような考えに立って、釈迦入滅の紀元前544年からイエスがメシヤとして出現して真理を説き始める年、つまりイエスの30歳の年までを計算してみよう。イエスの生誕年代もかなり不明確であるので、一応最新学説の紀元前7年誕生説を採用すれば、イエスの30歳の年は紀元23年となる。
 すると、釈迦入滅からイエス登場(伝道開始)までの期間は567年となり、実はこれが56億7000万年の正体(宗教的倍数表現)ではないかという説が成立するのである。ただ、私のこの解釈は全く学術的なものではなく、いわば宗教的シンボリックな数字の読み解きの一つと考えていただきたい。